「送信」ボタンを押してから相手に届くまで、メールがどのような旅をしているか考えたことはありますか?
実は、メールが届く仕組みは「郵便」ととてもよく似ています。手紙を送るとき、私たちはポストに投函しますよね。すると郵便局が手紙を集めて、届け先の地域の郵便局に届けて、最終的に届け先の家のポストに届きます。メールも同じように、たくさんの「中継地点」を通って届けられているのです。
この記事では、メールが届く仕組みを、できるだけやさしい言葉で解説していきます。「サーバー」「IPアドレス」「DNS」「ポート」「SMTP」「POP」「IMAP」といった言葉が出てきますが、すべて身近なものに例えながら説明するので、安心して読み進めてください。この仕組みを理解しておくと、「メールが届かない」「勝手にメールが消えた」といったトラブルの原因が分かるようになります。
サーバーって何?〜24時間働く「お店」のような存在〜
まず最初に「サーバー」という言葉について理解しましょう。サーバーという言葉を聞いたことがある人も多いと思いますが、具体的に何なのかイメージしにくいかもしれません。
サーバー(Server)は、英語で「給仕する人」「サービスを提供する人」という意味です。レストランで注文を聞いて料理を運んでくれるウェイターやウェイトレスのことを「サーバー」と呼ぶこともあります。コンピューターの世界でも同じで、「何かサービスを提供してくれるコンピューター」のことをサーバーと呼びます。
例えば、コンビニエンスストアを思い浮かべてください。コンビニは24時間開いていて、私たちが行けばいつでも商品を買うことができます。私たち「お客さん」が欲しいものを言えば、コンビニはそれを提供してくれます。サーバーも同じです。24時間365日動き続けていて、私たちが「これが欲しい」とお願いすれば、それを提供してくれるのです。
一方、私たちが使っているパソコンやスマートフォンのことを「クライアント」と呼びます。クライアント(Client)は「依頼人」「お客さん」という意味です。サーバーに対して「このサービスをください」とお願いする側ですね。
メールの世界で言えば、メールを保管したり、配達したりする仕事をするコンピューターが「メールサーバー」です。私たちが使うメールソフトやスマートフォンのメールアプリは「メールクライアント」です。
サーバーには様々な種類があります。
| サーバーの種類 | 役割 |
|---|---|
| ウェブサーバー | ウェブサイトを見せてくれる |
| ファイルサーバー | ファイルを保管してくれる |
| ゲームサーバー | ゲームの対戦相手とつないでくれる |
| メールサーバー | メールを届ける仕事をする |
IPアドレス〜インターネット上の「住所」〜
手紙を送るとき、何が必要でしょうか?当然、届け先の住所ですよね。住所がなければ、郵便局も手紙をどこに届ければいいか分かりません。
インターネットの世界でも同じです。メールを届けるためには、届け先の「住所」が必要です。インターネット上の住所のことを「IPアドレス」と呼びます。IPは「Internet Protocol(インターネット・プロトコル)」の略で、プロトコルとは「約束事」「ルール」という意味です。
IPアドレスは、数字で表されます。例えば 192.168.1.1 とか 172.217.175.110 のような形です。0から255までの数字を4つ、ピリオド(点)で区切って並べたものです。これが今でも広く使われている「IPv4(アイピーバージョン4)」という形式です。
| IPバージョン | 形式例 | アドレス数 |
|---|---|---|
| IPv4 | 192.168.1.1 |
約43億個 |
| IPv6 | 2001:0db8:85a3:0000:0000:8a2e:0370:7334 |
ほぼ無限 |
インターネットに接続しているすべてのコンピューターやスマートフォンには、それぞれ固有のIPアドレスが割り当てられています。メールサーバーにもIPアドレスがあります。このIPアドレスがあるおかげで、世界中のどこにいても、正しい相手にメールを届けることができるのです。
ただし、IPアドレスは数字の羅列なので、人間には覚えにくいですよね。そこで登場するのが、次に説明する「DNS」なのです。
DNS〜インターネットの「電話帳」〜
みなさんは友達に電話をかけるとき、電話番号を直接暗記していますか?ほとんどの人は「連絡先」アプリを使って、名前から電話番号を調べて電話をかけていると思います。
DNS(Domain Name System:ドメイン・ネーム・システム)は、まさにインターネット版の「電話帳」や「連絡先アプリ」です。人間が覚えやすい名前(ドメイン名)と、コンピューターが理解できる数字の住所(IPアドレス)を結びつける仕組みです。
例えば、みなさんが「gmail.com」にメールを送りたいとき、「gmail.com」というのは人間が覚えやすくするためのドメイン名です。でも、コンピューター同士が通信するときは、数字のIPアドレスが必要です。そこでDNSに「gmail.comのIPアドレスを教えて」と問い合わせると、「142.250.196.5」といった数字のIPアドレスを返してくれるのです。
メールの場合は、もう少し特別な仕組みがあります。メールを届けるためには「MXレコード」というものを調べます。MXは「Mail Exchanger(メール交換機)」の略です。
DNSのおかげで、私たちは覚えにくい数字の羅列を暗記しなくても、「[email protected]」のような分かりやすいメールアドレスを使うことができるのです。
ポート〜サーバーの「窓口番号」〜
大きな会社や役所に行ったことはありますか?そういった場所には、たいてい複数の窓口がありますよね。「1番窓口は住民票の発行」「2番窓口は印鑑証明」「3番窓口は税金の相談」というように、窓口ごとに担当する仕事が違います。
コンピューターの世界でも同じような仕組みがあります。1台のサーバーでも、複数のサービスを同時に提供していることがあります。このとき、どのサービスを使いたいのかを区別するために使われるのが「ポート」という仕組みです。
よく使われるポート番号
| サービス | ポート番号 | 暗号化版 |
|---|---|---|
| HTTP(ウェブサイト) | 80 | 443(HTTPS) |
| SMTP(メール送信) | 25, 587 | 465(SMTPS) |
| POP3(メール受信) | 110 | 995(POP3S) |
| IMAP(メール受信) | 143 | 993(IMAPS) |
これを住所に例えると、IPアドレスが「建物の住所」で、ポート番号が「部屋番号」のようなものです。
SMTP〜メールを「送る」ための仕組み〜
メールを「送る」ときに使われるのが「SMTP」です。SMTPは「Simple Mail Transfer Protocol(シンプル・メール・トランスファー・プロトコル)」の略で、1982年に作られた歴史のある仕組みです。
SMTPを郵便に例えると、「ポストに手紙を入れてから、届け先の郵便局に届くまでの仕組み」に相当します。
SMTPの流れ
- あなたがメールを送信する
- あなたが使っているメールサーバー(送信側サーバー)にメールが届く
- 送信側サーバーは、宛先のメールアドレスを見て、どのサーバーに届ければいいかをDNSで調べる
- 相手のメールサーバー(受信側サーバー)にメールを転送する
SMTPでメールを送るとき、サーバー同士は決まった形式で会話をします。
送信側: HELO aaa.com(こんにちは、aaa.comです)
受信側: 250 OK(了解しました)
送信側: MAIL FROM: [email protected](差出人は田中さんです)
受信側: 250 OK
送信側: RCPT TO: [email protected](届け先は鈴木さんです)
受信側: 250 OK
送信側: DATA(本文を送ります)
受信側: 354 Start mail input
送信側: [メール本文]
送信側: .(終わり)
受信側: 250 OK
現代のメールシステムでは、ユーザーがメールを送信するときは587番ポート(サブミッションポート)を使い、サーバー同士がメールを転送するときは25番ポートを使うという使い分けが一般的です。
POP〜メールを「取り出す」仕組み〜
POPは「Post Office Protocol(ポスト・オフィス・プロトコル)」の略で、「郵便局の約束事」という意味です。現在は3番目のバージョンが使われているので、正式には「POP3」と呼ばれています。
POPの仕組みは、実際の郵便ポストにとてもよく似ています。サーバーに届いたメールを「ダウンロード」して、自分のパソコンに保存します。
POPの特徴
| メリット | デメリット |
|---|---|
| サーバーの容量を気にしなくていい | 複数デバイスでの管理が難しい |
| オフラインでもメールを読める | ダウンロード後はサーバーから削除される |
POPの最大の特徴は、メールをダウンロードしたら、基本的にサーバーからメールが削除されるということです。
IMAP〜メールを「共有」する仕組み〜
IMAPは「Internet Message Access Protocol(インターネット・メッセージ・アクセス・プロトコル)」の略です。POPの問題点を解決するために作られた、より新しい仕組みです。
IMAPを図書館に例えてみましょう。IMAPは「図書館の中で本を読む」方式に近いです。メールはサーバーに置いたまま、必要なときにサーバーにアクセスして読みます。
IMAPの特徴
| メリット | デメリット |
|---|---|
| どのデバイスからでも同じメールを見られる | インターネット接続が必要 |
| 既読・未読の状態が同期される | サーバーの容量を使う |
| サーバー上でフォルダ整理できる | 容量がいっぱいになると受信不可 |
IMAPの落とし穴〜複数人で共有すると何が起きる?〜
IMAPは非常に便利な仕組みですが、特に多いトラブルが「複数人で同じメールアカウントを共有している」ケースです。
会社でよくあるのが、「info@会社名.com」のような代表メールアドレスを、複数の社員が同じアカウント情報で使っているケースです。これをIMAPで使うと、様々な「不思議な現象」が起きます。
よくあるトラブル
| 現象 | 原因 |
|---|---|
| メールが勝手に消える | 誰かが削除すると全員から消える |
| 知らないフォルダが増える | 他の人が作ったフォルダが表示される |
| 既読・未読がおかしくなる | 誰かが読むと全員「既読」になる |
これらは「バグ」や「故障」ではなく、IMAPの仕組みとして正常な動作です。複数人で代表メールを扱いたい場合は、メーリングリスト機能や専用の問い合わせ管理システムを使うのが正しい解決策です。
おすすめのメールソフト〜Thunderbirdを推奨する理由〜
数あるメールソフトの中で、特におすすめしたいのが「Thunderbird(サンダーバード)」です。Mozilla Foundationが開発している無料のメールソフトで、Windows、Mac、Linuxで使えます。
Thunderbirdをおすすめする理由
1. バージョンが明確で安定している
マイクロソフトのOutlookには複数のバージョンが存在し、見た目も機能も微妙に異なります。その点、Thunderbirdはバージョン番号が明確で、画面構成が世界中で同じです。
2. その他の利点
- 複数のメールアカウントを一元管理できる
- カレンダー機能が統合されている
- 豊富なアドオン(拡張機能)で機能を追加できる
- 広告が一切表示されない
- 無料なのでライセンス費用がかからない
メールクライアントの設定〜何を入力すればいいの?〜
メールクライアントを設定するときには、いくつかの情報を入力する必要があります。
必要な設定情報
| 項目 | 説明 | 例(Gmail) |
|---|---|---|
| メールアドレス | 自分のアドレス | [email protected] |
| パスワード | メールのパスワード | ** |
| 受信サーバー | IMAP/POPサーバー | imap.gmail.com |
| 受信ポート | 暗号化ポート | 993(IMAPS) |
| 送信サーバー | SMTPサーバー | smtp.gmail.com |
| 送信ポート | 暗号化ポート | 465 or 587 |
設定で迷ったときは、「○○メール Thunderbird 設定」などで検索すれば、たいてい公式の設定ガイドが見つかります。
メールが届くまでの流れ〜全体をつなげて理解しよう〜
田中さん([email protected])から鈴木さん([email protected])にメールを送る場合を例にします。
送信の流れ
- 田中さんがメールを送信 → メールクライアントがSMTPサーバーに接続(587番ポート)
- 送信サーバーがDNSに問い合わせ → 「bbb.comのMXレコードを教えて」
- メールを転送 → 送信サーバーがIPアドレスの25番ポートに接続
- 受信サーバーがメールを保存
受信の流れ
- 鈴木さんがメールをチェック → IMAPサーバーに接続(993番ポート)
- メールを取得 → サーバーが「田中さんから1通届いてるよ」と返答
このように、一通のメールが届くまでには、DNS、SMTP、IMAPなど、たくさんの仕組みが連携して動いています。
メールの安全を守る仕組み
主なセキュリティ対策
| 対策 | 説明 |
|---|---|
| TLS暗号化 | 通信内容を暗号化し、盗み見を防ぐ |
| 認証 | ユーザー名とパスワードで正当性を確認 |
| SPF | 正当な送信サーバーのリストをDNSに登録 |
| DKIM | メールに電子署名を付けて改ざんを防止 |
| DMARC | 検証失敗時の処理方法を指定 |
まとめ
この記事では、メールサーバーの仕組みについて解説しました。
押さえておきたいポイント
- サーバー:24時間サービスを提供するコンピューター
- IPアドレス:インターネット上の住所(数字)
- DNS:ドメイン名とIPアドレスを結びつける電話帳
- ポート:サービスを区別する窓口番号
- SMTP:メールを送信するための仕組み(25番/587番ポート)
- POP:メールをダウンロードする仕組み(110番/995番ポート)
- IMAP:メールをサーバーで共有する仕組み(143番/993番ポート)
仕組みを知っていると、トラブルシューティングができるようになります。メールソフトに迷ったら、まずはThunderbirdを試してみてください。
用語集
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| サーバー(Server) | サービスを提供するコンピューター |
| クライアント(Client) | サービスを利用する側のコンピューターやソフトウェア |
| IPアドレス | インターネット上の住所。数字で表される |
| DNS | ドメイン名とIPアドレスを結びつける仕組み |
| ポート | サーバー上のサービスを区別するための番号 |
| SMTP | メールを送信するためのプロトコル |
| POP3 | メールをダウンロードして保存する方式 |
| IMAP | メールをサーバーに置いたまま読む方式 |
| MXレコード | DNSに登録されているメールサーバーの場所情報 |
| TLS | 通信を暗号化するための仕組み |
| Thunderbird | Mozilla Foundationが開発する無料のメールソフト |


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