AI大手Anthropicがインド市場への本格進出を加速させる中、同名のインド企業「Anthropic Software」が商標権侵害を主張し、カルナータカ州の商事裁判所に提訴した。グローバルAI企業の新興市場進出に伴う「名前の衝突」が注目を集めている。
この記事のポイント
- インドのベンガルール拠点の「Anthropic Software」が、2017年から同名を使用していたとして米Anthropicを提訴
- カルナータカ州商事裁判所は召喚状を発行したが、暫定差止命令は却下。次回審理は2月16日
- Anthropicはインドオフィス開設やIrina Ghose氏の採用など、インド進出を急速に進めている最中での法的紛争
訴訟の背景 ― 2017年から使っていた名前
インド・ベンガルールに拠点を置くAnthropic Softwareは、創業者のMohammad Ayyaz Mulla氏が2017年に設立したソフトウェア企業だ。同社は「Anthropic」という名称を7年以上にわたり使用してきたと主張しており、米国のAI大手Anthropicがインド市場に参入したことで「既存顧客に大きな混乱が生じている」と訴えている。
Mulla氏は1,000万ルピー(約1,700万円、約11万ドル)の損害賠償を求めるとともに、先使用権(prior use)の正式な認定と、さらなる混乱を防ぐための救済措置を求めている。ただし同氏は「共存の可能性にはオープンだが、法的権利を守るために訴訟は必要」との姿勢も示している。
裁判所の判断 ― 暫定差止は認めず
カルナータカ州の商事裁判所は2026年1月20日付の命令で、米Anthropicに対する召喚状と通知を発行した。しかし、インド側企業が求めていた暫定差止命令(interim injunction)については却下している。これは、現時点では米Anthropicのインドでの事業活動を即座に差し止めるほどの緊急性は認められなかったことを意味する。
次回審理は2026年2月16日に予定されており、ここで本格的な審理が進展するかどうかが注目される。商標紛争では「先使用権」が重要な争点となるが、国際的なブランド認知度との兼ね合いで判断が分かれるケースも少なくない。
Anthropicのインド戦略 ― 本格進出の真っただ中
この訴訟のタイミングは、米Anthropicがインド市場への投資を大幅に拡大している時期と重なっている。同社は2025年10月にインドオフィスの開設を発表し、その後、元Microsoft India マネージングディレクターのIrina Ghose氏をインド事業の責任者に任命するなど、着実に体制を整えてきた。
さらに、AnthropicのCEOであるDario Amodei氏は、ニューデリーで開催されるAI Impact Summitに登壇予定で、OpenAIのSam Altman氏、NVIDIAのJensen Huang氏、GoogleのSundar Pichai氏といった他のテック業界のトップリーダーと並んで参加する。インドがグローバルAI市場においていかに重要な位置づけになっているかを象徴するイベントだ。
グローバルAI企業が直面する共通の課題
今回の商標紛争は、Anthropicに限った問題ではない。急速にグローバル展開を進めるAI企業が、新興市場で既存の現地企業と「名前の衝突」を起こすリスクは常に存在する。特にインドのような巨大市場では、多数の企業が登記されており、類似名称の企業が存在する確率は高い。
過去にも、海外テック企業がインド進出時に商標問題に直面した事例は複数ある。事前の徹底的な商標デューデリジェンス(調査)の重要性が改めて浮き彫りになった格好だ。一方で、インドの知的財産法では「先使用権」が強く保護される傾向があり、仮に米Anthropicがグローバルで圧倒的な知名度を持っていても、インド国内での先使用権を持つ現地企業の権利が優先される可能性がある。
知っておくと便利なTips
- 商標権は国ごとに独立して管理されるため、ある国で商標を持っていても、他の国で自動的に保護されるわけではない
- インドで事業を行う場合、インド特許意匠商標総局(CGPDTM)での商標登録が推奨される
- 「先使用権」(prior use)は多くの法域で認められており、登録の有無にかかわらず、先に使用していた側に一定の権利が認められる
まとめ
米AI大手Anthropicのインド進出が、思わぬ法的障壁に直面した。ベンガルールの「Anthropic Software」は2017年から同名を使用しており、商標権侵害と顧客の混乱を理由に提訴。裁判所は暫定差止を却下したものの、本訴訟は2月16日に次回審理を迎える。Anthropicにとってインドは重要な成長市場であり、この紛争の行方はインド戦略全体に影響を及ぼす可能性がある。グローバルAI企業にとって、新市場進出時の商標デューデリジェンスの重要性を改めて示す事例となっている。


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