AIアシスタントの急速な普及に伴い、新たなセキュリティリスクが浮き彫りになっています。Miggo Securityの研究者らが発見した今回の脆弱性は、Google GeminiがAIの言語理解能力を悪用した「間接プロンプトインジェクション」攻撃に対して脆弱であることを示しました。この攻撃により、攻撃者はユーザーの認識なくプライベートなカレンダーデータを抽出することが可能でした。本記事では、この脆弱性の技術的な仕組みと、AI時代に求められるセキュリティ対策について詳しく解説します。
この記事のポイント
- Google Geminiに間接プロンプトインジェクション脆弱性が発見された
- 悪意あるカレンダー招待を通じて、ユーザーの会議情報を密かに抽出可能だった
- 攻撃はユーザーの直接的な操作を必要とせず、AIの言語処理能力を悪用する
- Googleは責任ある開示プロセスを経て、すでに問題を修正済み
プロンプトインジェクションとは何か
プロンプトインジェクションは、AIシステムに対する比較的新しい攻撃手法です。従来のSQLインジェクションやコマンドインジェクションと同様に、入力データの中に悪意のある命令を埋め込む攻撃ですが、その対象がAIの言語モデルである点が特徴的です。
「間接プロンプトインジェクション」は、さらに巧妙な手法です。攻撃者はAIシステムに直接アクセスするのではなく、AIが読み取る可能性のあるデータソース(ウェブページ、ドキュメント、メール、カレンダーイベントなど)に悪意のある指示を埋め込みます。AIがそのデータを処理する際に、埋め込まれた指示が実行されてしまうという仕組みです。
この攻撃が危険なのは、ユーザーが全く気づかないうちに攻撃が成功してしまう点にあります。通常のフィッシング攻撃では、ユーザーが悪意のあるリンクをクリックするなどの行動が必要ですが、間接プロンプトインジェクションではそのような直接的な操作は不要です。
今回の攻撃手法の詳細
Miggo Securityが発見した攻撃は、3段階のプロセスで実行されます。
第1段階:準備
攻撃者は、ターゲットユーザーにカレンダー招待を送信します。このカレンダーイベントの説明文(description)には、一見すると普通のテキストに見えますが、AIに対する隠された命令が含まれています。このペイロードは「休眠状態」であり、ユーザーが単にカレンダーを見ただけでは何も起こりません。
第2段階:起動
ユーザーがGeminiに「火曜日に何か予定ある?」のような無害な質問をすると、攻撃が起動します。Geminiはカレンダーデータを参照する際に、悪意あるイベントに埋め込まれた指示も一緒に処理してしまいます。
第3段階:データ窃取
Miggo Securityの報告によると、「Geminiは新しいカレンダーイベントを作成し、ターゲットユーザーのプライベートな会議の完全な要約をイベントの説明文に書き込みました」。共有カレンダーを閲覧できる攻撃者は、この新しいイベントを通じて窃取されたデータにアクセスできます。
なぜこの攻撃が深刻なのか
この脆弱性の深刻さは、いくつかの要因から来ています。
まず、攻撃の検出が極めて困難です。ユーザーの視点からは、AIが通常通りカレンダーの質問に答えているように見えます。バックグラウンドで悪意のある操作が行われていることに気づく手段がありません。
次に、エンタープライズ環境での影響が大きいです。企業のカレンダーには、会議の参加者、議題、場所、機密プロジェクトの名前など、ビジネス上重要な情報が含まれています。これらが漏洩すると、競合他社への情報流出、インサイダー取引のリスク、ソーシャルエンジニアリング攻撃の材料提供などにつながる可能性があります。
さらに、この攻撃はAIシステム全般に適用可能な手法です。Google Geminiだけでなく、カレンダーやメール、ドキュメントにアクセスするあらゆるAIアシスタントが同様のリスクを抱えている可能性があります。
実践してみよう
AIアシスタントを安全に使用するために、以下の対策を実施しましょう。
# Googleアカウントのセキュリティ設定を確認
# 1. Google アカウント設定ページにアクセス
# https://myaccount.google.com/security
# 2. サードパーティアプリのアクセス権限を確認
# https://myaccount.google.com/permissions
# 3. カレンダーの共有設定を確認(不要な共有を削除)
# Google Calendar > 設定 > カレンダーの共有設定
また、組織でAIツールを使用している場合は、以下のコマンドでGoogle Workspace のAI機能の設定を確認できます。
# Google Workspace Admin Console経由でGemini設定を確認
# 管理者として以下を確認:
# 1. Admin Console > Apps > Google Workspace > Gemini
# 2. データアクセス権限の範囲
# 3. ログとモニタリング設定
セキュリティTips
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Tip 1: 不審なカレンダー招待に注意: 知らない送信者からのカレンダー招待は慎重に扱いましょう。特に説明文が長い、または意味不明なテキストが含まれている場合は要注意です。自動的にカレンダーに追加される設定を無効にすることも検討してください。
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Tip 2: AIアシスタントの権限を最小化: AIツールに与えるデータアクセス権限は必要最小限にしましょう。カレンダー、メール、ドキュメントへのフルアクセスが本当に必要かどうかを定期的に見直すことが重要です。
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Tip 3: 機密情報の取り扱いを見直す: カレンダーイベントのタイトルや説明文に機密プロジェクト名や顧客名を直接書かないようにしましょう。コードネームや参照番号を使用することで、万が一の漏洩時のリスクを軽減できます。
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Tip 4: 定期的なセキュリティ監査: 組織内でAIツールの使用状況とセキュリティ設定を定期的に監査しましょう。新しい脆弱性が発見された際に迅速に対応できる体制を整えることが重要です。
まとめ
今回のGoogle Geminiの脆弱性は、AI時代における新たなセキュリティリスクを象徴しています。従来のサイバーセキュリティでは、コードの脆弱性やネットワークの設定ミスが主な攻撃対象でした。しかし、AIシステムでは言語そのものが攻撃ベクトルになり得ます。
Googleは責任ある開示プロセスを経て、すでにこの問題を修正しています。しかし、これは氷山の一角に過ぎません。AIアシスタントがより多くのデータソースにアクセスし、より複雑なタスクを実行するようになるにつれて、同様の脆弱性が今後も発見される可能性が高いでしょう。
組織と個人の両方において、AIツールの便利さとセキュリティリスクのバランスを意識し、適切な対策を講じることが求められています。今後もAIセキュリティの動向に注目し、最新の脅威情報をキャッチアップし続けることが重要です。
📎 元記事: Google Gemini Prompt Injection Flaw Exposed Private Calendar Data


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