なぜメモリは高くなったのか?2025年のメモリ高騰の真相と2026年の見通し
「パソコンのメモリが高すぎる」「SSDが買えない」——2025年末から2026年にかけて、こうした悩みを抱えるユーザーが急増しています。DDR5メモリは年初の4倍近くまで高騰し、生産終了が発表されたDDR4も価格が逆転するという異常事態に。本記事では、AI需要の爆発、DDR5移行期の需給ギャップ、メーカー3社の供給調整という3つの構造的な理由から、メモリ価格高騰のメカニズムをわかりやすく解説します。2026年の市場予測、パソコン・スマホへの影響、そして私たちがとるべき対策まで、メモリ価格問題の全体像を把握できる完全ガイドです。
はじめに
「パソコンを買おうと思ったらメモリが高すぎる」「SSDの値段が倍になっている」——2025年末から2026年にかけて、こうした声がインターネット上に溢れています。実際、パソコンのメモリ価格は2025年5月頃と比べて約2〜4倍にまで跳ね上がり、一部の秋葉原のショップでは「お一人様2点まで」という購入制限がかかるほどの事態になっています。
なぜ、突然メモリがこれほど高くなったのでしょうか?そして、この状況はいつまで続くのでしょうか?この記事では、一般の方にもわかりやすく、メモリ価格高騰の背景にある「3つの構造的な理由」と、2026年以降の見通しについて解説します。
第1章 そもそも「メモリ」とは何か?
メモリの価格高騰について理解するために、まず「メモリ」とは何かを簡単におさらいしましょう。
メモリは「作業机」のようなもの
パソコンやスマートフォンには「メモリ(RAM)」という部品が搭載されています。これは、コンピュータが作業をするときに使う「一時的な記憶領域」です。よく使われる例えとして、「作業机」に例えられます。
机(メモリ)が広ければ広いほど、たくさんの書類(データ)を同時に広げて作業できます。逆に机が狭いと、書類を出したりしまったりする手間がかかり、作業効率が落ちてしまいます。同様に、メモリが多いパソコンは複数のアプリを同時に快適に動かせますし、少ないと動作が遅くなったり、フリーズしやすくなったりします。
メモリの種類:DDR4とDDR5
現在、パソコン用メモリには主に「DDR4」と「DDR5」という2つの規格があります。DDR5は2020年頃に登場した新しい規格で、DDR4より高速でデータ処理能力に優れています。
最新のパソコンの多くはDDR5に対応していますが、数年前に購入したパソコンや、コストを抑えたモデルではDDR4が使われています。重要なのは、DDR4とDDR5は互換性がないため、「DDR4対応のパソコンにDDR5メモリを挿す」ということはできません。
今回の高騰で何が起きているか
2025年末の時点で、DDR5の32GBメモリセットは年初の約17,000円から70,000円近くにまで上昇しました。約4倍という異常な値上がりです。また、本来なら「旧世代」として値下がりするはずのDDR4も、価格がDDR5を上回るという「逆転現象」まで発生しています。
では、なぜこのような事態が起きているのでしょうか?
第2章 メモリ高騰の「3つの構造的な理由」
メモリ価格の急騰は、単なる一時的な品不足ではありません。その背景には、メモリ産業全体を揺るがす「3つの構造的な変化」があります。
理由1:AI需要の爆発と「HBM」への生産集中
ChatGPTが変えた世界
2022年末にOpenAI社がChatGPTを公開して以来、世界中で「生成AI(ジェネレーティブAI)」のブームが起きています。Google、Microsoft、Amazon、Metaといった巨大IT企業は、AI分野で覇権を握るために、数兆円規模の設備投資を行っています。
AIが「考える」ためには、膨大なデータを超高速で処理する必要があります。そのために欠かせないのが、高性能な「GPU(グラフィック処理装置)」と、それに搭載される特殊なメモリ「HBM(High Bandwidth Memory:高帯域幅メモリ)」です。
HBMとは何か?
HBMは、AI処理に特化した超高速メモリです。通常のメモリ(DDR4やDDR5)とは異なり、メモリチップを何層にも積み重ねることで、極めて高速なデータ転送を実現しています。NVIDIAの最新AIチップにはこのHBMが大量に搭載されており、AIの「頭脳」を支えています。
ここで問題となるのが、HBMの製造には通常のメモリの約3倍のウェハ(半導体の原材料)が必要だということです。つまり、HBMを1つ作るために使うリソースで、DDR5やDDR4なら3つ作れるのです。
なぜ私たち用のメモリがなくなるのか?
メモリを作れる工場は世界中で限られています。主要なメーカーはSamsung(韓国)、SK Hynix(韓国)、Micron(アメリカ)の3社で、この3社だけで世界のメモリ市場の約95%を占めています。
これらの企業は今、利益率の高いHBMの生産を優先しています。AI企業は「価格が2倍でも3倍でも構わない、とにかくメモリを確保したい」という姿勢で、メーカーに大量の注文を出しています。その結果、工場の生産能力の多くがHBMに振り向けられ、私たち一般消費者向けのDDR4やDDR5の生産が後回しにされているのです。
市場調査会社の推計によると、AI関連のメモリ消費量は2025年中にスマートフォン向けを上回り、全体の50%以上を占めるようになったとされています。かつてメモリ業界の最大顧客はスマートフォンやパソコンのメーカーでしたが、今やAIデータセンターがその座を奪いつつあるのです。
理由2:DDR5への移行期における「需給ギャップ」
新旧規格の狭間で起きた混乱
メモリの世界では、約10年ごとに規格が新しくなります。DDR3からDDR4へ、そしてDDR4からDDR5へ——。2025年現在、まさにDDR4からDDR5への移行期にあります。
通常、このような移行期には、旧規格の製品は徐々に値下がりしていきます。しかし今回は、まったく逆のことが起きています。DDR4の価格がDDR5を上回る「価格逆転」という前例のない現象が発生したのです。
DDR4はまだ「必要」
最新のパソコンやサーバーはDDR5に対応していますが、世の中にはまだDDR4を必要とする機器が大量に存在します。数年前に購入したパソコン、産業用の制御機器、組み込みシステム、そして一部のスマートフォンやSSDなど——これらはすべてDDR4を使っています。
DDR4とDDR5には互換性がないため、「DDR5が安いから乗り換えよう」というわけにはいきません。DDR4を使う機器を動かし続けるには、DDR4を調達するしかないのです。
「生産終了宣言」が引き起こしたパニック
2025年春、大手メモリメーカー3社は相次いでDDR4の生産終了を発表しました。Samsungは2025年末まで、Micronは2026年第1四半期まで、SK Hynixは2026年上半期までに生産を終了するという計画でした。さらに、中国最大のメモリメーカーCXMT(長江存儲科技)もこれに追随する姿勢を見せました。
この発表が市場に強烈な供給不安をもたらしました。「DDR4がなくなる前に確保しなければ!」——企業も個人も「駆け込み需要」「買いだめ」に走り、DDR4の価格は一気に急騰しました。市場調査会社のデータによると、2025年4月末に1.75ドルだった8Gbitチップの価格は、6月末には5ドル以上に——わずか2ヶ月で約185%も上昇したのです。
理由3:Samsung・SK Hynix・Micronの「供給調整」戦略
世界のメモリを握る「3社寡占」
メモリ市場には、他の多くの産業と大きく異なる特徴があります。それは、わずか3社で市場の95%を占める「寡占状態」にあることです。Samsung、SK Hynix、Micronの3社がメモリの供給量と価格を実質的にコントロールしています。
この3社はAI向けの高利益製品(HBM)に生産能力をシフトさせています。一般消費者向けのDDR4やDDR5よりも、HBMのほうがはるかに高い利益率を確保できるからです。Micronの2025年第4四半期の決算では、データセンター向け事業の粗利益率が56%を超えたと報告されています。通常のメモリ事業では考えられない高収益です。
Micronの「Crucial撤退」の衝撃
2025年12月、衝撃的なニュースが飛び込んできました。Micronが、長年展開してきた一般消費者向けメモリブランド「Crucial(クルーシャル)」からの撤退を発表したのです。Crucialは自作パソコンユーザーにとって定番のブランドであり、信頼性の高いメモリやSSDを提供してきました。
この撤退の理由は明確です。AIデータセンター向けの需要があまりにも大きく、一般消費者向けの製品を作っている余裕がなくなったのです。Micronの経営陣は決算説明会で「すべての市場セグメントにおける顧客の需要を満たせない状況は残念である」と述べ、2026年以降も供給不足が続くことを認めています。
「NCNR契約」という新たな商慣行
供給不足を背景に、メーカーは強気の商慣行を打ち出しています。「NCNR(Non-Cancellable, Non-Returnable)契約」——つまり「キャンセル不可・返品不可」の契約です。通常、こうした厳しい条件は特注品にしか適用されませんが、今やDDR4のような汎用メモリにまで適用されるようになっています。
Samsungは大口顧客に対し、この条件での長期供給契約を求めていると報じられています。メモリメーカーが圧倒的な「売り手市場」にいることを示す象徴的な動きです。
第3章 2026年の市場予測
では、この状況はいつまで続くのでしょうか?残念ながら、短期的に状況が好転する見込みは薄いというのが、多くの専門家の見解です。
専門家たちの見通し
半導体市場調査の権威であるTrendForceは、「2026年は構造的な価格上昇の年になる」と予測しています。DRAMの供給量は2025年比で約20%増加する見込みですが、需要は最大25%増と予測されており、依然として需要が供給を上回る状況が続くとされています。
中国の大手メモリメーカーTeam Groupのジェネラルマネージャーは、さらに厳しい見方を示しています。「コモディティメモリの供給は2026年初頭にさらに悪化する見込みであり、新たな生産能力が出現する2027〜2028年まで正常化は見込めない」と述べています。
「10年続く」という最悪のシナリオ
最も衝撃的な予測を出しているのは、NANDフラッシュコントローラ大手Phison ElectronicsのCEOです。同氏は「NANDフラッシュの不足が10年間続く可能性がある」と主張しています。
これが現実となれば、AIが登場する前の「安いメモリ時代」を知る私たちにとって、まさに悪夢のような話です。もちろん、10年というのは最悪のシナリオですが、少なくとも2026年中は価格の大幅な下落は期待できないというのが、業界関係者の共通認識となっています。
新工場の稼働時期
供給不足を解消するため、SamsungとSK Hynixは新工場の建設を進めています。Samsungは2028年稼働予定のP5工場を、SK Hynixは2027年中頃稼働予定のM15X工場を建設中です。
しかし、これらの新工場が本格稼働するまでには時間がかかります。早くても2027年後半、現実的には2028年頃まで、供給不足の状況は続く可能性が高いでしょう。
価格上昇の見通し
市場調査会社Counterpoint Researchによると、DRAM価格は2025年第4四半期にさらに30%上昇し、2026年初頭にはさらに20%の上昇が見込まれています。DDR5の64GB RDIMMモジュール(主にデータセンターで使用)は、2026年末までに2025年初頭の約2倍の価格になる可能性があるとされています。
第4章 私たちの生活への影響
メモリ価格の高騰は、自作パソコンユーザーだけの問題ではありません。私たちが日常的に使うあらゆるデジタル製品に影響を及ぼしています。
パソコンの値上げ
HP、Dell、Lenovoといった大手パソコンメーカーは、2025年末から2026年にかけて相次いで価格改定を実施しています。日本のマウスコンピューターも2025年12月に公式SNSで「早期購入」を呼びかけました。値上げ幅は最大20%に達するとも言われており、「パソコンが買いづらい時代」に突入しています。
特に影響が大きいのは、16GB以上のメモリを搭載する中〜上位モデルです。ビジネス用途やクリエイティブ作業向けのパソコンは、メモリコストの上昇が直撃しています。
スマートフォンへの影響
最近のスマートフォンは、AI機能を本体だけで処理(オンデバイスAI)するために、8GBや12GBといった大容量メモリを搭載するのが当たり前になってきました。しかし、メモリの部品単価が上がれば、それがそのまま本体価格に跳ね返ります。
一部のメーカー幹部は「次期フラッグシップモデルの価格を維持するのは難しい」と発言しており、2025年後半から2026年に発売される新機種は、従来より20〜30%高い価格設定になる可能性があります。「5万円台スマホが減少する」との予測も出ており、手頃な価格帯の選択肢が狭まりつつあります。
SSD・ストレージの価格上昇
メモリだけでなく、SSD(ソリッドステートドライブ)の価格も大幅に上昇しています。SSDに使われるNANDフラッシュメモリも、同じ製造ラインでDRAMと競合しているためです。2025年末から2026年初頭にかけて、SSD価格は最大50%の値上げが確認されています。
パソコンの買い替えや増設を検討している方は、「必要最小限」のタイミングで購入するか、中古・リファービッシュ品も視野に入れる必要が出てきています。
ゲーム機への影響も?
一部報道によれば、任天堂の次世代Switchも、より高価なメモリを搭載せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があるといいます。ゲーム機のような大量生産製品でさえ、コスト増加の圧力にさらされているのです。
日本特有の事情:円安による「二重苦」
日本の消費者にとって、状況はさらに厳しいものがあります。メモリは国際的に「ドル建て」で取引されています。そして日本は長らく「円安」の状況にあります。
つまり、「世界的な価格上昇」と「円安による為替差損」というダブルパンチを食らっているのです。「海外で2倍」のものが「日本では2.2〜2.5倍」に見える——この「二重インフレ」が、日本の消費者の財布を直撃しています。
第5章 今、私たちはどうすべきか?
厳しい状況が続く中、私たち消費者はどのように行動すべきでしょうか?いくつかの選択肢を整理してみましょう。
「本当に必要か」を見極める
まず考えるべきは、「今すぐ購入する必要があるか?」という点です。現在使っているパソコンやスマートフォンが問題なく動いているなら、2026年後半〜2027年まで待つのが経済的には賢明な選択です。
一方、仕事で使うパソコンが壊れてしまった、あるいはBlenderやPhotoshopなどの専門ソフトを使って収入を得ているという場合は、高価格でも購入せざるを得ないでしょう。仕事が止まることによる損失のほうが、高額なメモリを購入するコストよりも大きいからです。
「最小限」からスタートする
どうしても購入が必要な場合は、「最小限の構成」から始めることを検討しましょう。64GBを最初から搭載するより、まず32GBで様子を見て、価格が落ち着いてから増設するほうが、結果的に安く済む可能性が高いです。
中古市場を活用する
新品の価格が高騰する中、中古市場には時折「掘り出し物」が出ることがあります。あるユーザーは、新品で5万円するDDR5 32GBメモリを、中古で11,000円で入手できたと報告しています。
もちろん、中古品にはリスクもありますので、信頼できる販売店から購入する、保証の有無を確認するなどの注意は必要です。
DDR5対応機器を選ぶ
新しくパソコンを購入するなら、DDR5対応のモデルを選ぶことをお勧めします。DDR4は将来的に生産終了が確実であり、長期的に見ると入手がさらに困難になる可能性があります。初期投資は高くなりますが、将来の拡張性を考えるとDDR5のほうが安心です。
おわりに
2025年末から続くメモリ価格の高騰は、単なる一時的な品不足ではありません。AI革命がもたらした半導体産業の構造変化、DDR4からDDR5への移行期における需給ギャップ、そして大手3社による供給調整——これら複数の要因が複雑に絡み合った結果です。
残念ながら、2026年中にこの状況が劇的に改善する可能性は低いでしょう。新工場が稼働する2027年後半以降、徐々に供給が安定していくことが期待されますが、「かつての安いメモリ時代」に戻ることはないかもしれません。
私たち消費者にできることは、この状況を正しく理解し、「本当に必要なとき」に「必要な分だけ」賢く購入することです。焦って高値で買い集めるのではなく、冷静に市場を見守りながら、最適なタイミングを見極めていきましょう。
この困難な時期を乗り越えるために、最新の市場動向にアンテナを張りつつ、無駄な出費を避けることが大切です。
参考情報
本記事は以下の情報源を参考に作成しています:
- PC Watch「メモリ価格が2.8倍に爆上げ」(2025年12月)
- ギャズログ「DDR5メモリは2026年も高値維持」(2026年1月)
- TrendForce 市場調査レポート
- GIGAZINE「サムスンがDDR5メモリの価格を100%以上引き上げ」(2025年12月)
- マイナビニュース「SamsungとSK hynixがDDR4 DRAMの生産終了を2026年に延期か?」(2025年9月)
- 各種海外メディア(Network World, Data Center Dynamics等)


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