AIハルシネーションは「バグではなく圧縮アーティファクト」:情報理論が解き明かすLLMの本質とStrawberryによる検出

LLM hallucinations aren't bugs. They're compression artifacts. We just built a Claude Code extension that detects and self-corrects them before writing any code. Claude Code

AIハルシネーションは「バグではなく圧縮アーティファクト」:情報理論が解き明かすLLMの本質とStrawberryによる検出

「LLMのハルシネーションはバグではなく、圧縮アーティファクトである」——この一見逆説的な主張が、AI研究の最前線で注目を集めています。Claude Codeと連携するオープンソースツール「Strawberry」の開発者は、情報理論に基づいてハルシネーションを「予測可能な圧縮失敗」として捉え直し、数学的に検出・対処する手法を提案しています。本記事では、この革新的なアプローチの理論的背景から実践的な活用方法まで徹底解説します。

この記事のポイント

  • ハルシネーションは「バグ」ではなく、LLMの圧縮・展開プロセスにおける必然的な現象
  • 情報理論に基づき、ハルシネーションのリスクを数学的に定量化できる
  • StrawberryはClaude Code MCPサーバーとして動作し、detect_hallucinationツールを提供
  • 24%の回答を棄却することで、ほぼ0%のハルシネーション率を達成可能

LLMを「情報圧縮システム」として理解する

なぜハルシネーションは避けられないのか

大規模言語モデル(LLM)は、インターネット上の膨大なテキストデータを学習しています。しかし、この学習プロセスは実質的には「情報の圧縮」です。数兆トークンのテキストが、数十〜数百GBのパラメータ(重み)に圧縮されるのです。

そして推論時、LLMはこの圧縮された情報を「展開」して回答を生成します。問題は、完全な情報がパラメータに保存されているわけではないことです。圧縮は本質的に「非可逆」であり、情報の一部は失われています。

arXivに掲載された論文「Hallucination in LLMs: Predictable Compression Failures」は、この現象を厳密に定式化しています。論文によれば、LLMは「順序に依存した条件付き記述長を最小化」しており、特にレアなケースや学習データに少ない情報については、統計的に「もっともらしい」が事実とは異なる内容を生成してしまうのです。

圧縮アーティファクトとしての再解釈

JPEGやMP3などの非可逆圧縮を考えてみてください。圧縮率を上げると、画像にはブロックノイズが、音声には高周波の欠落が発生します。これらは「バグ」ではなく、圧縮アルゴリズムの必然的な副産物——つまり「アーティファクト」です。

LLMのハルシネーションも同様に捉えることができます。Claudeがスタックトレースを「自信満々に」誤読し、間違った根本原因を提案するとき、それは壊れているのではありません。インターネットを重みに圧縮し、要求に応じて展開するという、まさに訓練された通りのことをしているのです。正解を再構築するのに十分な情報がない場合、統計的にもっともらしいが誤った内容で空白を埋めるのです。

情報理論が示すハルシネーション検出の可能性

数学的閾値の発見

2025年の研究では、ハルシネーションが発生する条件を情報理論的に定量化できることが示されました。重要な発見は以下の通りです:

  1. 情報予算(Information Budget): 任意の主張を正当化するために必要な「ビット数」を、生成前に計算できる
  2. 定量化マルチンゲール違反界: 入力順序による偏差が対数スケール(O(log n))で増加することが証明された
  3. 期待値レベルの復号化法則: 情報予算と回答の信頼性を直接結びつけることができる

実験では、この理論に基づいた「回答/棄却」プランナーを使用することで、24%の回答を棄却するだけでほぼ0%のハルシネーション率を達成できました。つまり、「わからない」と正直に言うタイミングを数学的に決定できるのです。

ハルシネーションは知性の代償

さらに興味深いのは、「ハルシネーションは知性の不可避な副産物である」という理論的主張です。2025年9月の論文では、知性とハルシネーションのトレードオフが本質的であることが論じられています。

LLMの知性は「汎化」から生まれます。見たことのないデータに対しても、学習した知識を応用して回答できる能力です。しかし、この汎化プロセスは必然的に「不完全な情報からの推論的再構築」を含みます。創造性、抽象化、適応性を支えるこのメカニズムこそが、検証可能な事実から乖離した出力——ハルシネーション——を不可避的に生み出すのです。

Strawberry:実践的なハルシネーション検出ツール

Strawberryとは何か

Strawberryは、Hassana Labsが開発したオープンソースのハルシネーション検出ツールです。Claude Code MCPサーバーとして動作し、detect_hallucinationというシンプルなツール呼び出しで利用できます。

名前の由来は、有名な「strawberryの’r’は何個?」問題です。LLMが各文字を正確にリストアップしながらも、最終的な数を間違えるという現象——情報は利用可能なのに、処理に失敗するケース——を検出することを目的としています。

技術的な仕組み

Strawberryの核心的なアプローチは「証拠削除テスト」です:

  1. 回答を個別の「主張(claim)」に分割
  2. 各主張を裏付ける証拠をソースから特定
  3. その証拠を削除した場合に、モデルの信頼度がどう変化するかを測定
  4. 信頼度が変わらなければ、モデルは実際にはその証拠を使用していなかった=ハルシネーション

この手法により、以下のような問題を検出できます:
– RAGシステムでの取得失敗(情報を取得しても使用していない)
– 引用ステップの無視(出典を挙げても内容と対応していない)
– 架空の情報源の生成

インストールと使用方法

Strawberryは以下のコマンドでインストールできます:

# Pythonパッケージのインストール
pip install pythea

# Claude Code MCPサーバーとして登録
claude mcp add hallucination-detector

# 基本的な使用例
python -m strawberry.factual_recall \
  --question "あなたの質問" \
  --out report.json

Claude Codeとの統合後は、以下のようなプロンプトで利用できます:

detect_hallucinationを使って、この回答を検証してください。
回答: [検証対象のテキスト]
ソース: [参照元のテキスト]

実際の使用例

Strawberry開発者は、自身の体験を以下のように共有しています:

「私が作成した検出器の精度が低い理由をClaudeに分析させました。Claudeは6つの自信に満ちた主張をしましたが、それらは私を何時間も間違った方向に導く可能性がありました。そこで『detect_hallucinationで根本原因の分析を検証し、検証できない主張があれば分析を補強して』と指示しました。」

結果:
– 主張1: ✅ 検証済み(99.7%の信頼度)
– 主張4: ❌ フラグ付き(0.3%)——「私の解釈にすぎません」
– …

3時間のデバッグが30秒で完了し、「なんとなく正しそう」ではなく数学的な信頼度スコアが得られるようになったのです。

コードにおけるハルシネーションの特殊性

著名なエンジニアSimon Willisonは、興味深い視点を提示しています:「コードにおけるハルシネーションは、LLMの最も害が少ないエラー形態である」

なぜなら、存在しないメソッドやライブラリを生成した場合、コードを実行した瞬間にエラーとして検出されるからです。本当に危険なのは、コンパイラが検出できない論理的誤り——実行しても問題が明らかにならないバグ——です。

この視点は、ハルシネーション対策の優先順位を考える上で重要です。Claude Codeを使用する際は:
1. 生成されたコードは必ず実行して検証する
2. 論理的な正しさはコードレビューで確認する
3. 事実に関する主張(「このAPIは〇〇を返す」など)にはStrawberryのようなツールを活用する

知っておくと便利なTips

  • 不確実性を許可する: Claudeに「わからない場合はわからないと言っていい」と明示的に伝えると、ハルシネーションが大幅に減少します。これはAnthropicの公式ドキュメントでも推奨されている手法です。

  • 長文では引用を先に: 20Kトークン以上のドキュメントを扱う場合、Claudeにまず原文からの引用を抽出させてから処理させると、ハルシネーションのリスクが下がります。

  • Best-of-N検証: 同じプロンプトを複数回実行し、出力を比較します。一貫性のない部分はハルシネーションの可能性があります。

  • 複数モデルでのクロスチェック: CleanLabのTLM(Trustworthy Language Model)など、GPT-4oやClaude 3を横断してハルシネーションを検出するツールも登場しています。

まとめ:ハルシネーションと共存する時代へ

ハルシネーションを「バグ」として捉え、完全に排除しようとするアプローチには限界があります。情報理論が示すように、これは知性と汎化能力の代償として不可避な現象だからです。

より現実的なアプローチは、ハルシネーションを「既知の特性」として受け入れ、検出・対処するシステムを構築することです。Strawberryのようなツールは、数学的な信頼度スコアを提供することで、「なんとなく正しそう」から「検証済みの推論」への移行を可能にします。

AI支援開発の成熟とは、AIの限界を理解し、それを補完するツールとワークフローを確立することかもしれません。Strawberryはその一歩を示しており、今後さらに洗練されたハルシネーション対策ツールの登場が期待されます。


📎 元記事: https://www.reddit.com/r/ClaudeAI/comments/1q9be2b/llm_hallucinations_arent_bugs_theyre_compression/

参考リンク:
Strawberry GitHub リポジトリ
arXiv: Hallucination in LLMs: Predictable Compression Failures
Simon Willison: Hallucinations in code are the least dangerous form of LLM mistakes
Anthropic公式: ハルシネーション削減ガイド

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